ほのぼのプチ童話集 かわいい主人公たちの短い童話集です。ご家族でどうぞ!

第四話「森のいねむりレッスン」

童話館「森のいねむりレッスン」

ほかほかの春の訪れで森の中は大あわてです。冬眠から覚めたクマやキツネがお腹を空かして、小さな動物たちを狙い始めたからです。リスやウサギやカエルは、のんびりと『春の日なたぼっこ』ができません。
ほかほかの日なたで、いねむりするのが大好きなのに・・・。
草や木も芽吹いてきましたが、まだ葉っぱも小さくて隠れる場所もありません。

 そこで、小さな動物達は緊急会議を開きます。
日なたでいねむりしていてもクマやキツネに捕まらないように、あれやこれやと意見を交わしました。
でも、納得のいく方法が見つかりません。最後に、カエルのケロベエが言いました、
「僕が里におりて行った時、人間のおばあちゃんがいねむりしていました。だけど、僕が草の上で跳ねただけなのに目を覚ましたよ」
と。それで、全員一致で決まったことは、里のおばあちゃんのいねむりを学ぼう!ということでした。
誰かが代表して、いねむりレッスンのために里に下ることになりました。
誰がいいのでしょう?
 つくしでくじ引きが行なわれます。一本だけつくしの頭がくっついていない茎を引いたものが当たりです。
ウサギのピョンタに当たりました。ピョンタは鼻をヒクヒクさせながら大勢の動物達の前で誓いを述べます、
「しっかり上手ないねむりをレッスンして帰って来ます。」

 ピョンピョン!ピョンピョン!ピョンタは森を出てやっと里の畑まで来ました。
どうやら、この近くの大きな家の縁側にいつも座っているというおばあちゃんがいるはずなのです。
菜の花畑の中から耳を立てて眺めていると、目の前を一人のおじいちゃんがゆっくり歩いています。
ピョンタはそうっとついていくことにしました。
すると、いました、いました!
カエルのケロベエが語っていたおばあちゃんがちょこんと座り、お裁縫をしながら庭に向かってコックリコックリ!気持ち良さそうにいねむりをしています。手にはお裁縫の針を持ち、眼鏡は顔から落ちそうです。
おじいちゃんが近づいておばあちゃんに声をかけようとしたその時!おばあちゃんはフッと顔を上げ
「お帰りなさい」
と、微笑みます。
「スゴイや!」
ピョンタは沈丁花(じんちょうげ)の木の陰から感心しました。
いねむりしていても、誰かが近づけばすぐに、パッ!と目が覚めるのです。
「この技(わざ)をしっかり学んでいくぞ」
ピョンタはくりくりの目をおばあちゃんに集中します。おばあちゃんはまた一人になると春のひなたの中でコックリコックリ!始めました。
 ピョンタは試しに沈丁花の木の葉を耳でカサッ!と揺すってみます。すると、おばあちゃんはパッ!と目覚めて、
「どなたかね」
と、言います。
「ようし!」
ピョンタは勇気を奮っておばあちゃんのそばへ近づいてあいさつをします。
おばあちゃんは、ウサギのピョンタの訪問に、とても驚きますが嬉しそうににこにこと歓迎します。
ピョンタは森の会議について話してから
「上手ないねむりを教えて下さい」
と、頼みました。
おばあちゃんはコロコロ笑いました。でも、鼻眼鏡の上から優しい目でピョンタをじっとみつめ
「私の方法はただ一つだよ・・それでも役に立つかねェ」
と、言います。
「ぜひ、お願いします」
ピョンタは熱心に頼みました。すると、おばあちゃんが
「これじゃよ!」
見せてくれたのはお裁縫の縫い針でした。針はおばあちゃんの右手できらきら光っています。
 説明によると、コックリコックリ!いねむりしていても、深く眠ると頭が前に下がり手に持っている針の先に顔が当るのだそうです。それで、チクリ!痛い!と、目が覚めるというのでした。
ですから深く眠ることはなく、いつでも起きられる準備が出来てるのだそうです。
「なるほど・・」
納得して喜んだピョンタに、おばあちゃんは言いました
「あとは練習しだいだね。」
そうだ!レッスンだ!ピョンタは
「ありがとう」
と、何度も耳を折り曲げてから一目散に森へ急ぎます。

 ピョンタを待っていた小さな動物達は大喜び!
再び会議を開きピョンタの報告にわくわくしながら耳を傾けます。おばあちゃんから聞いた方法をピョンタが知らせると、一斉に拍手がわき上がります。
「あとはレッスンだけだ!」
と、大感激です。
 いよいよ、春の森で命がけのいねむりレッスンが始まりました。まず「針」の代わりになるものを捜します。
リスたちは去年のどんぐりの実をひろい先っぽにある『とげ』を使います。
ウサギたちは『松の葉の一本』を使います。カエルは迷いに迷った挙句(あげく)、ザリガニの死骸の『爪』(つめ)を使うことにしました。
 それぞれの小さな動物達は「針」を抱えて日なたを求め、いねむりしたつもりでコックリコックリ!首をうなだれてみました。
「イタッー!」
「あー痛い!」
森のあちこちで密かな悲鳴が上がります。効果は抜群です。これならぐっすり眠り込んでしまうことがありません。レッスンの結果を互いに報告するために、またまた会議が開かれました。
今年の春は獲物として捕まるものが少なくなるでしょう!
と、いう結論が出ました。そして注意も発表されます。
匂いで敵に気付かれないように、いねむりは春風の風下でしましょう!
というものでした。
最後に、そこにはいない里のおばあちゃんに感謝のありがとうが一斉に叫ばれました。そしてウサギのピョンタにも感謝が述べられて、会議は閉じられました。

 春の森の木の上で、小川の小石の上で、若葉の裏でも小さな動物達のいねむりが始まります。
ほかほかの日なたの森を訪ねたら「針」を抱えてコックリコックリ!している可愛い動物達に会えるでしょう。

(by 徳川悠未)