ほのぼのプチ童話集 かわいい主人公たちの短い童話集です。無料で読めます。お子さんへ読み聞かせましょう!
庭の大きなイチジクさんの木の下に、小さな小さな明日葉(あしたば)があらわれました。
暗い土の下から、やっとお日様の光の中へお顔をだした明日葉くんはとてもうれしそうです。
明日葉の坊やがお空のほうを見上げると、大きな大きなイチジクの木が、きれいな葉っぱをたくさんつけてそびえています。
「あ、きっとぼくのお母さんだぁ。お母さん!ぼくお外に出たよー!」
「おやまあ!かわいい芽の坊やだこと。」
イチジクさんは、お空の近くでやさしくほほえみました。春のお庭の花や木も、皆で拍手(はくしゅ)しています。
そこへ、明日葉くんを蒔(ま)いたママがお家から来て、小さな明日葉の芽を見つけました。ママの後ろには、体の弱い小さな女の子がいます。
ママが喜んで明日葉くんに言いました。
「ちいさな、ちいさな、アシタバくん!明日の夢は、な~に?」
女の子もママのまねをして言います。
「ちいちゃー、ちいちゃー、アチタバくん!あちたのゆめは、にゃーに?」
明日葉坊やは、うれしくって女の子にピコピコと葉っぱをゆらしました。
明日葉坊やは、ピカピカの新しい葉っぱをだして、すくすく育っていきます。
女の子は体が弱いので、あまりお庭に出られません。でも、やっと出られたときには、ママの口まねをしてくり返し言います。
「ちいちゃー、ちいちゃー、アチタバくん!あちたのゆめは、にゃーに?」
ついに、明日葉くんは、胸をはって大きな声で答えます。
「ぼくの明日の夢はねぇ、イチジク母さんのように空まで大きな木になって、甘い甘い実をつけることさ。そして、きみに食べてもらうんだぁ。」
「うふふ、アンガトー。アチタバくん!」
暑い夏になりました。イチジク母さんは優しくほほえみながら、甘い実をたくさんつけました。
女の子のママが喜んで、イチジクさんの実を摘(つ)んでいきます。
明日葉くんはイチジク母さんの大木(たいぼく)の下なので、お日様の熱にも負けずに元気です。
『明日も、また!ぼくは大きくなるんだぁ!』と、明日の夢に向かって『明日こそ、明日こそ!』と、がんばるのでした。
そして、枯れ葉がきれいな秋になりました。明日葉くんは、いっしょけんめいにがんばったので、大きくはなったのですが・・・イチジク母さんには、ぜんぜん届かないのでした。
『ぼくは、もう・・・母さんのようにはなれないんだ。いつも励ましてくれる女の子に、甘い実を食べてもらえないまま死んじゃうんだ。』
明日葉くんは、ついにあきらめたのです。そこへ、女の子とママが来ました。女の子が言います。
「ちいちゃな、ちいちゃな、アチタバくん!おおきくなってよかったでしゅね。ママがよろこんでましゅよ。」
そして、ママが言いました。
「おおきな、おおきな、アシタバくん!明日の夢をかなえたのね。」
女の子が、隣で小さなお手々で精いっぱいパチパチと拍手しました。ママが、明日葉くんから葉っぱを摘みながら続けます。
「体の弱いむすめのおいしい薬になるまで、大きくなってくれて本当にありがとう!おいしく食べさせてもらいますね。」
おどろいた明日葉くんは、大きなイチジク母さんを見上げます。すると、イチジクさんは、青いお空できれいな黄色い葉っぱをゆらしながら答えました。
「明日葉くん。今のあなたこそが、毎日、夢見てたあなたですよ。あなたはりっぱな明日葉になったのですよ。」
イチジクさんが優しくほほえんだその時、女の子が言いました。
「おーきな、おーきな、アチタバくん!あちたのゆめは、あたしのためにお庭で、お医者ちゃまになることでちゅたねー!」
女の子とママが、笑顔いっぱいになったのを見た明日葉くんは、うれしさのあまり、ピカピカの柔らかな葉っぱを思いっきりゆらしました。
すると、庭の木々の枯(か)れ葉たちも、いっせいに踊りだして、祝福するのでした。
その後、明日葉くんは毎年毎年、おいしい葉をしげらせます。やがて、女の子はお庭に出て遊べるほどに元気になりました。
そして、笑顔で明日葉くんに言うのでした。
「おおきな、おおきなアシタバくん!明日も、わたしのおいしいお医者さまのままで、いてね!」
(by 徳川悠未)