ほのぼのプチ童話集 かわいい主人公たちの短い童話集です。ご家族でどうぞ!

第三話「コスモス揺らぎ大会」

童話館「コスモス揺らぎ大会」

川土手のあちこちに、 ピンクと白のコスモスが咲く季節が、やって来ました。
貯水場の壁際にも、白いコスモスが咲いています。
今年も、コスモスの美しさを競い、 ミス・コスモスを決める大会が始まります。
風に乗って『そよ~そよ~!』とその美しい姿を、 揺らしてみせるのです。
今年の大会は特別です。
ススキや泡立ち草たちの観客つきです。
コスモス達は、とても興奮しています。
これ迄、 優勝してきたのは「土手のあちらのピンクさん」でした。
「壁際の白いコスモスのスノーさん」は、 いつも風が足りなくて・・なかなか美しく揺らげず、 毎年最下位でした。
それでもこの大会に参加出来ることを本当に嬉しく思い、 とても幸せでした。
ミス・コンテストに参加できる! それがコスモスの誇りなのですから。

お空の雲のお日様の合図を、 昨日から待ち構えていた秋の風が、 待ちくたびれてお疲れ気味です。
お日様のお顔をすじ雲が遠慮しながら、 通り抜けた九時前のその時!
ピカーキラっ!と、合図が出てついに大会のスタートです。
秋風がようやく・・サワサワーと吹いてきました。
それぞれが出来る限りの力を尽くし、 朝から夕方まで、大きく優雅に揺れて見せます。
「壁際のスノーさん」も、大きく揺れようとしますが・・ やっぱり、陰なので風が足りません。
皆の三分の一の揺れです。
でも、とても嬉しそうです。

その姿に心を打たれた秋風が、 貯水場の壁を目がけてヒーフー!ヒーフー! と、がんばるのですが、なかなかスノーさんを 大きく揺らすところまでは、どうしても届きません。
どうしても壁が風の行く手を阻むのでした。
コスモスのスノーさんは秋風に、 「ありがとう~ありがとう~」 を、右に左に揺れるたび伝え続けます。
仲間のコスモス達は、大きく揺れながら、 「スノーさん、がんばって!」 と、エールを送ります。
それを聞いた秋風は、作戦をあれこれ思案します。
そしてお昼頃、 風がピタッと止んでしまいました。

やがて秋風は大空へ向かってヒュウー! という鋭い音と共に昇り、去って行きました。
コスモス達の大会会場の土手は大騒ぎです。
こんなことはいまだかつてないのですから・・
「まあ、どうしましょう。揺らげないわ~」
「今年の大会は中断かもしれないわね」
と、参加者のコスモス達もがっかりです。

ところが、 午後3時も回り、皆が大会中止の宣言を覚悟していた時です。
ゴーッ!ヒューッ!ソョ~!サワーッ! という音色を奏でながら秋風が、大勢の風達と戻ってきたのです。
何ということでしょう!
南の国から春風を呼び戻し、帰ろうとしていた夏風を呼び止めて、 北風には寒い国からの出張を依頼したのでした。
コスモスの揺らぎ大会の会場には、 周りの小鳥たちまで驚いて集まり、大変な興奮状態になりました。
その興奮が冷めないうちに、コスモスの美しさを競う揺らぎは再開します。
ピンクも赤も、白も精一杯麗しく揺らごうとします。
でも、風が強すぎてお顔が飛ばされそうになり、 揺らぐどころではなくなってしまいました。
そんな中で、壁際のスノーさんだけは、優雅に美しく揺らいでいました。
壁があるお蔭で、ちょうど良い風加減になっていたのです。
「風さんたち、ありがとう」 と、言いながら幸せいっぱいに揺れました。
でも、仲間の皆の事が心配です。
「大丈夫でしょうか~? がんばって!」 と、今度はスノーさんの方がエールを送ります。
仲間のコスモス達が答えます、 「大丈夫、大丈夫」
「心配しないで、スノーさん」
「観客の皆さんに、コスモスの美しさを
知らせてあげられるように、がんばって!」
この励ましでスノーさんは益々麗しく、夕方まで揺れ続けました。

お日様が山のてっぺんに着地して、大会の終了合図となります。
春風、夏の風、秋風と北風達は、自分の果たした役目に満足して帰ります。
いよいよ、 優勝者であうミス・コスモスを皆で決める時間です。
賑やかな夕暮れの中、推薦の声が上がります。
「土手のあちらのピンクさん」と「こちらのコスモスさん」が
力強い声で言いました。
「今年のミス・コスモスは、壁際のスノーさんだと 思います!」
皆も
「そうね!素晴らしかったもの!」 と、全員一致で決まりました。
スノーさんは
「私は昼頃まで、大きく揺らげなかったわ」 と、言いました。
すると仲間のコスモスが、一斉に言います。
「いいえ、午前中は少しの風という苦しい中で、 幸せそうに揺れている姿がとても美しかったわ~!
そして、午後からは誰よりも大きく優雅に揺れていたのは スノーさんだけだったのよ!」
と。
「壁際のスノーさん」は、仲間の愛と初優勝が嬉しくて、 幸せのあまり夕闇の中、そっと涙を流しました。
観客のススキや泡立ち草が、葉を揺らして拍手です。
飛び込みの観客になった小鳥達もピーチュクチュク!
と、泣き声で拍手します。

秋の夕暮れ、 貯水場のある川土手一面の小さな世界は、優しいコスモスの香りと平和な仲間。
みんなで幸福な一日を過ごしました。

(by 徳川悠未)