ほのぼのプチ童話集 かわいい主人公たちの短い童話集です。ご家族でどうぞ!

第五話「めん鶏サキの悲劇」

童話館「めん鶏サキの悲劇」

山のすそ野、 森近くに一軒の農家がありました。
庭には、めん鶏が放し飼いにされていて、 毎日コッコー!と、タマゴを産んでいました。

夏が終わりかけた頃、 飼い主が若いめん鶏を二羽増やしました。
七羽になっためん鶏たちで庭は賑わい、 犬も猫も圧倒されて隅っこにいます。

めん鶏たちの中でも 『サキ』は特別に目立っていました。
しかし大勢になった仲間に囲まれている内に、 めん鶏の『サキ』はタマゴを産むという務めも忘れ、 仲間のめん鶏の世話をするのが生き甲斐になりました。
タマゴを産む盛りなのですが、あれこれと気を遣い、 朝から夕方まで毎日忙しく過ごしていました。

新入りした二羽のめん鶏には、 エサをついばむ時の注意やタマゴを産み落とす 場所まで指図しました。
草丈のある所にタマゴを産み落とすと、 ヘビが来て飲み込まれる事や、 虫をついばむ時は 飼い主の育てている野菜の葉っぱを 傷めない事などコケッー!。
親切に、そして少々おせっかいに・・ それはそれは、 大変な神経の使いようです。
年上のめん鶏には、危ないので出来るだけ鶏小屋から 出ないように指示します。

サキの振る采配(さいはい)に 他の六羽は黙って従っていました。
他の六羽は、ただ良いタマゴを産み落として、 飼い主の家族に喜ばれようと・・・ 庭をコッコ、コッコと楽しみながら 毎日を過ごしていました。

家の周りの山々が紅葉し、秋風が枯れ葉を 躍らせる頃になりました。
めん鶏のサキは皆の為、 そして飼い主の家族の為にと忠実に目覚め、 相変わらずリーダーシップを執る毎日を 送っていました。
細やかな指示を与えるサキのお蔭もあって、 タマゴは毎日六個ずつ産み落とされ 五人家族に十分でした。

ところがコケコッコー!
ある日の午後、 サキだけが鶏かごに入れられました。
他の六羽が話しています。
「コッコー!サキさんは私たちの為に がんばったから・・
きっと特別のごちそうを頂くことになるのかも しれないわねコッコ!」
「サキさんがいないとちょっと困るけど・・ 何とかなるわねコッコー!」
「私は、このエサでもかまわないわ。
とにかくタマゴを産む事に励むわコッコー!」。

めん鶏のサキはというと、かごの中にいても 仲間の六羽を心配しています。
『わたしがいないと、彼女達は・・十分の数だけ タマゴを産めないかもしれない・・ そう、きっとタマゴの数が足りなくって 飼い主のご家族に迷惑をかけるわ。
ああ!草の中に隠れるように産んだりしないかしら コケーッ』
心配の種は尽きません。
考える事といったら・・そればかりです。
サキは自分なしでは、 仲間のめん鶏がタマゴを産む事さえできないのだ と思っているのです。

夕方になりました。
飼い主である家族の父親がサキの入ったかごを家の裏に 運び去りました。
秋の夕暮れ、 山里の一軒農家の家族の夕食です。
楽しそうな家族五人の会話が鶏小屋に聞こえてきます。
鶏小屋の六羽のめん鶏は何も見えませんコケッコー!。

闇の中で、耳を傾けましたコッコ、コッコ。
会話はこうです。
「ねぇ、お父さん・・この肉は柔らかいですねぇ」 と、お母さん。
「僕、このローストチキン!すごくおいしいや」
「私も、ローストチキン!大好き・・」
子供たちの嬉しそうな声です。
「これなら、私の歯でも食べられるよ・・」 と、おばあちゃんの声です。
「よかった!よかった!皆おいしそうで・・。
このめん鶏は、まだ若いくせにちっとも タマゴを産もうとしないで・・
他のめん鶏を追いかけてばかりいるんでね。
仕方がないから今日のごちそうだよ。
母さんの料理の腕前もなかなかだねぇ」 とお父さんです。

六羽のめん鶏は驚きましたコケコケッコッコー!
そうです! めん鶏『サキ』は、食べられてしまったのです!
あんなに飼い主のために、がんばって気を遣い、 細かい指示をコッコと与えて仲間がしっかりタマゴを コケッ!と産むようにと、助けたつもりなのに。
悲劇が生じたのです!
かわいそうな『サキ』・・コッコー!
ただ一つ、めん鶏の ほんとうの務めは仲間におせっかいする事ではなく、 タマゴをコケッ!と産み落とす事だったのです。
それを忘れていた為に食べられちゃったサキでした。
コケッコッコー!

(by 徳川悠未)